抜歯矯正で症状が悪化したケース
抜歯矯正で症状が悪化したケースの解説と具体的分析
▼抜歯矯正によって症状が悪化したケースについて解説いたします。
頭位・顔貌について
【頭位】傾斜なし
【顔貌】
(Eライン標準)
・モンゴロイド:上唇+2ミリ 下唇+1ミリ
・白人:上唇-1ミリ 下唇-2ミリ
N・A(鼻唇角)
・標準95〜100°
- N・A(鼻の下の角度.青ライン):約90°〜で標準範囲
- Eライン(鼻~顎の赤ライン):口腔全体が大きく後退しています
- メンターリス・サルカス(下唇の折り返し):下唇の折り返しが強く、下唇の下に影ができます
- サイロマンディブラーアングル(下顎〜喉のシルエット):緩め(下顎後退傾向の影響)
- 鼻中隔:右湾曲
口腔内写真
【ICP 咬頭嵌合位】
現象として
- 叢生(歯並びの乱れ)
- 歯間離開
- 上下正中のズレ
偏心運動
正しい噛み合わせの場合、顎を前方や左右に動かしたときに奥歯が接触することはありません。
正しい噛み合わせで、顎を横に動かした時に接触するのは犬歯のみで、下顎を前方に動かした時は複数本の前歯が左右対称で同時に接触し、奥歯は離開しているのが理想です。
※こちらの患者さまは、極端に内側に傾いた前歯によって接触状況が作られている、特異な噛み合わせの環境です。
Mallampati分類
最大開口して、声を出さずに舌を最大限前方に出した状態での口蓋垂の見え方
不定愁訴
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セファログラム分析
※フランクフルト水平面に比べて上を向いているので気道は拡がって撮影されています。
- 頸椎:ストレートネック
- 舌位:上顎についています
- 舌骨:C3C4(標準に比べて下方に下がっています)
- PMライン(舌骨の前後的位置):気道の方向に後退しています
※舌骨がPMラインに付く程度が理想
咬合平面(歯の頂上を連ねた線)について
理想的な上顎の咬合平面は
1.前方は上唇から1〜2ミリ程度下
2.平面の延長線上に第二頚椎の歯突起中点になり、白の点線で示したようになります。
こちらの患者さまの上顎の咬合平面は
オレンジ色の実線で示したように理想的な平面に比べて「前下がりで、後ろ上がり」な平面になっています。
前歯の深い噛み合わせは、下顎の動きを抑制してしまいます。
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(※現在が青ライン、参考術後が黄ライン)
【側方面観セファロ分析における治療ベクトル】
- 歯軸を正常範囲に整える
- 咬合平面を整える
※(青矢印)上咽頭部で鼻呼吸環境に影響します。右写真の赤丸部分(平均:18.0以上)
口を開いて口蓋垂がしっかり見えない場合は、呼吸環境に問題があるということですが、こちらの患者さまは口腔の後退、下顎の運動抑制なども問題になってくることが考えられます。舌の後退は呼吸環境に悪影響をもたらすことから、特に年齢の増加とともに睡眠時の呼吸環境が悪くなることが考えられ、睡眠レベル、首肩の症状につながると考えられます。
Study Model分析
【パントモ評価】
【親知らず】
右下親不知は不調和で、手前の歯に悪影響を及ぼします。上顎の親知らずは、全体を理想的な環境にするためには抜歯した方が良いでしょう。
【下顎臼歯近心傾斜】
中間歯の欠損のため下顎の奥歯が手前に傾斜しています。下顎の前方や左右への運動で干渉になります。
模型による分析
問題点 (Problem list)
- 親知らず
- 顎提・歯列が全方向に狭い
- 過蓋咬合(前歯の内方への傾斜)
- 下顎臼歯近心傾斜(欠損の影響)
乳幼児期における顎提の未発達と中間歯の抜歯の影響から、歯で作られるアーチが前後左右の全方向に狭くなっています。
また、抜歯矯正による前歯のセットバックによって、上下顎の前歯が内下方に強く傾斜して、下顎の運動抑制を作り出しています。口腔は食べる、喋るだけではなく、特に睡眠時にさまざまな働きをしています。そのため、口腔環境の永続性を考えた場合、下顎が滑らかに動けるということと、下顎を動かしたときに奥歯や特定の歯に異常負荷がかからないことが、とても重要になります。
現在の口腔環境は、「口腔内が狭い」「下顎を動かしづらい」といった機能的な問題があり、上顎の前歯が下方に下がって審美的にも問題があると考えられます。