歯ぎしり食いしばりによって顔が大きくなるのはなぜ?
投稿日:2024年8月2日
カテゴリ:歯ぎしり・食いしばり 顎関節症
歯ぎしり食いしばりは、長期間続くと顔の形に影響を及ぼすことがあります。前回お話したような歪みだけでなく、顔が大きく見えることもよく聞きます。これにはいくつかの原因とメカニズムが関係しています。今回は前回の顔の歪みに続いて顔が大きく見える現象の原因とメカニズム、そして効果的な対策についてお話したいと思います。
顔が大きくなる原因とメカニズム
1. 咬筋の肥大: 歯ぎしりや食いしばりによって、エラから頬骨にかけて存在する咬筋と呼ばれる筋肉が過度に使用されると顎のエラあたりが膨らみ、顔が大きく見えます。これは筋肉のトレーニングによって筋肉が大きくなるのと同じメカニズムで、当然長期間続くと咬筋がさらに肥大することが考えられます。
2. 顎の骨格の変化(骨のリモデリング): 咬筋などの顎の骨周囲の筋肉が肥大することで、顎の骨にかかる力も増加します。これにより、顎の骨が厚くなったり形状が変わったりすることがあります。この骨のリモデリングは、顔全体の形状に影響を与え、顔が広く見える原因となります。特に成長期はこういった影響を受けやすいです。
3. 下顎の位置の変化: 2.と同時に現れやすいのが、顎の骨周囲の筋肉により下顎自体の位置が移動してしまう現象です。大抵の場合下顎は奥に引かれてしまうことがほとんどで、それによって面長に見えてしまう変化がありえます。また、この変化は下顎の奥に位置する顎関節に過度な負担をかけています。それにより顎関節症も併発することがあります。顔の形が変わり、顔が大きく見えるだけでなく、顎の運動にも悪影響を及ぼします。
4. 姿勢の変化: 2.や3.で説明した顎の変形や位置の変化は、顎の後ろに位置する気道を狭める影響を与えます。当然、気道が狭くなると呼吸がしにくくなりますので、人間の体は無意識的に気道をなんとか広げようとします。そういった行動は、猫背やストレートネックといった姿勢の変化に現れます。顔を前に突き出すような姿勢は視覚的に顔を大きく見せてしまいます。
対策と予防法
1. ナイトガードの使用: 歯科医が作成するマウスガード(ナイトガード)は、睡眠中の歯ぎしりや食いしばりを防ぐのに役立ちます。これにより、咬筋への負担を軽減し、筋肉の肥大を防ぎます。
2. ストレス管理: 自身の周囲を取り巻く環境からのストレスは自身の行動を変容することである程度コントロール・管理が可能です。
- リラクゼーションテクニック: ヨガ、瞑想、深呼吸などのリラクゼーション法を取り入れることで、ストレスを軽減し、無意識の歯ぎしりや食いしばりを減少させます。
- 定期的な運動: 運動はストレスを軽減し、全身の筋肉の緊張をほぐすのに役立ちます。特に有酸素運動が効果的とされています。
3. 生活習慣の見直し: 生活習慣のなかで、交感神経を優位にするものを減少させることが歯ぎしり食いしばりを減少させることに繋がります。
- カフェインとアルコールの制限・栄養状態の見直し: カフェインやアルコールの過剰摂取は歯ぎしりを悪化させることがあるため、これらの摂取を控えることが推奨されます。
- 規則正しい睡眠: 睡眠不足や不規則な睡眠は質の低い睡眠です。質の低い(=眠りの浅い睡眠)だと、REM睡眠(夢を見たり、寝返りや歯ぎしり食いしばりなどの体動が現れる睡眠の段階)が主体となるため歯ぎしり食いしばりのリスクを高めてしまいます。十分な睡眠時間を確保し、可能であれば眠りを妨げない環境づくりができるとなお良いです。
4. 自覚と意識づけ: 意外と起きている間でも食いしばりという形で歯や顎に負担をかけていることがあります。
- リマインダーによる想起させるきっかけを設定: 日中の食いしばりを防ぐために、スマートフォンのアラームやパソコンのディスプレイの端などに付箋を貼ったりしてリマインダーを設定することで、定期的に顎をリラックスさせることを意識します。
5. ボツリヌストキシン注射: 歯ぎしり食いしばりの常態化によって過緊張を生じている咬筋などの顎を動かす筋肉に対して、ボツリヌストキシン注射を行うことで、対象の筋肉の収縮を弱める効果があり、付きすぎた筋肉量を減少させ、かつ過剰な発達を防ぐことができます。
顎の発育時期から顎に過度で長期的な力をかけてしまう歯ぎしり食いしばりが生じる状況が続いている場合、上記に挙げたような対症療法(※)が主な選択肢になってしまいます。
※ボツリヌストキシン注射に関しては見識がいくつかございます。
根本的な治療法
対症療法としてではなく、根本的な治療によって顔の大きくなる原因を取り除きたい場合、歯の位置や顎の位置を理想的な方向にある程度誘導するアプローチする噛み合わせの治療がやはり必要です。本来であれば、顎の発育時期である学童期に矯正などといった形で介入できるのが理想的ですが、歯ぎしり食いしばりが顕在化してくるのは成人後であることが多いのが現状です。
結論
歯ぎしりや食いしばりが原因で顔が大きく見えるのは、主に咬筋の肥大や顎の骨の変形、顎の位置の変位、姿勢の変化などが関係しています。これらの原因を解明し、適切な対策・治療を選択することで、顔の形を維持することができます。結果として、それらは健康な口腔状態を保つことにも寄与します。
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