市販のマウスピースで顎関節症が悪化することはありますか?
投稿日:2025年2月12日
カテゴリ:顎関節症
顎関節症の治療において、マウスピース(スプリント)は重要な役割を果たします。しかし、市販のマウスピースを自己判断で使用すると、かえって顎関節症が悪化する可能性があります。今回は、市販のマウスピースの使用方法や調整の問題点、顎関節症悪化のメカニズム、そして適切な対応方法について詳しく解説します。
市販のマウスピースの種類や用途
ネットショップやドラッグストア、スポーツ用品店では、手軽に購入できるマウスピースが数多く販売されています。これらは主に以下の用途で使用されます。
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歯ぎしり・食いしばり対策用マウスピース
- ・睡眠中の歯ぎしりや食いしばりを防ぐために使用されます。
- ・シリコンゴムやプラスチックでできていて、ある程度の厚みがあり上顎か下顎どちらかに装着するのが一般的です。
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スポーツ用マウスピース
- ・ボクシング、空手などの格闘技やラグビー、アメフトといった他者との激しいコンタクトがあるスポーツにおいて衝撃から歯を守るために使用されます。
- ・厚みがあり、上下咬み合った状態のものや上顎だけのものなど設計は種目やルールによって様々です。
- ・噛み合わせの考慮されていないため、顎関節への影響が懸念されます。
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ホワイトニング用マウスピース
- ・歯のホワイトニングジェルを歯の表面に長時間保持するために使用されます。
- ・顎関節症治療とは無関係で、材料は薄いことが多いです。
- ・歯とマウスピースとの適合が不良で、ホワイトニング薬剤の漏洩が起きやすいので効果を得にくいです。
市販のマウスピースは基本的に「万人向け」に作られており、熱湯で柔らかくした状態で口腔内に当てはめて噛んで成形するものが多いです。つまり、個々の噛み合わせや顎の状態を考慮して設計されていないため、適合状態はお世辞にも良いとは言えません。よって、顎関節に悪影響を与えることがあります。
なぜ市販のマウスピースで顎関節症が悪化するのか?
次に市販のマウスピースで顎関節症が発症しうる原因について説明します。
1. 咬み合わせのズレが生じるため
市販のマウスピースは、歯科医院で作るものとは異なり、個々の顎の位置や噛み合わせに最適化されていません。ヒトの顎関節は構造や運動の仕方は完全な対称ということはありません。そのため、以下の理由から噛み合わせに多少影響を与えます。
- ・厚みが均一であるため、特定の歯に過度な圧力がかかる
- ・厚みが顎関節の構造や運動様式に対応していないため、顎関節への負担が増加する
- ・長時間、長期間の使用で顎の位置がずれてしまう
結果として、顎の筋肉や関節に不自然なストレスがかかり顎関節症が発症または悪化する可能性があります。
2. 下顎の動きを制限し、筋肉の緊張を助長する
本来、歯ぎしり食いしばり対策として作成されたマウスピースは、顎関節や歯の負担を軽減するために設計されています。しかし、市販のマウスピースから作成した場合、噛み合わせを考慮していないため、以下の問題が発生します。
- ・顎を自然な位置に動かせなくなり、関節に負担がかかったり筋肉が必要以上に緊張する
- ・無意識に食いしばる癖がつき、逆に顎関節への負担が増す
この結果、顎関節周囲の筋肉や関節が痛んだりや違和感を引き起こす可能性が高まります。
3. 正しい調整ができない
歯科医院で作るマウスピースは、用途や目的に合わせてひとりひとりの噛み合わせなどを細かくチェックしながら作製・調整します。しかし、市販のマウスピースは自分で調整しなければならず、以下のような問題が起こり得ます。
- ・熱成形タイプのものでも、適切なフィット感を得るのが難しい
- ・一度成形すると修正が困難で、間違った状態のまま使用してしまう
- ・サイズが合わず、無理に装着すると顎関節に負担がかかる
市販のマウスピースで顎関節症が悪化した場合
1. 使用を中止し、歯科医院を受診する
- 言うまでもありませんが、まず第一に使用を中止することが大切です。すでに顎の痛みや違和感が出ている場合は、マウスピースの用途問わずすぐに歯科医の診察を受けましょう。
- 顎関節や周囲の筋肉の状態などの診査診断を受けたうえで適切な治療方法・代替案を提案してもらうことが重要です。
2. 専門のスプリントを作成する
- 必要に応じて、顎への悪影響の少ない用途にあったマウスピースを歯科医院で作製することも可能です。1人ひとりの噛み合わせや顎の状態に合わせて作製・調整されるため、安全安心で十分な効果を得ることが可能になります。
まとめ
市販のマウスピースは手軽に購入でき、材料的な進歩もあるお陰である程度のパフォーマンスを発揮するという事実がある一方で、それでもやはり顎関節症を発症・悪化させるリスクがあります。特に、噛み合わせのズレや顎の動きの制限がかかることで顎関節に過度な負担がかかることが問題です。
万が一、市販のマウスピースを使用して顎関節症の症状が悪化した場合は、すぐに使用を中止し、歯科医院で適切な治療を受けるようにしましょう。
顎関節症の予防・改善には、専門医による診断と、生活習慣の見直しが不可欠です。
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