歯ぎしり食いしばりは、歯や顎に大きな負担をかけるだけでなく、長期的には顔の形に影響を及ぼすことがあります。今回はこれらの習慣が徐々に顔の歪みを招く原因とメカニズムと、こういったトラブルの予防と治療方法を紹介したいと思います。

歯ぎしり食いしばりで顔が歪むメカニズム

1. 顎の筋肉の不均衡

歯ぎしり食いしばりにより、顎の筋肉が過度に緊張する状態が持続すると、咬筋(頬からエラにかけて存在する筋肉)や側頭筋(側頭部に存在する筋肉)が肥大することがあります。これが片側だけで行われていると、顔の左右で筋肉の量に差が生じ、顔の非対称性が顕著になります。

2. 顎関節の変形

歯ぎしり食いしばりにより、過剰な力が顎関節にかかることで、顎関節の関節頭(顎関節の蝶番となる部位)が変形したり位置がずれることがあります。これにより、顎の運動方向がスムーズに動きにくくなったり、運動方向が非対称になったりするだけでなく、顎の位置が変位して顔の歪みが生じます。

3. 歯の摩耗と噛み合わせの変化

歯ぎしりや食いしばりにより、歯や詰め物などが摩耗して歯の高さが変わってしまうことがあります。摩耗が片側だけで顕著に生じていると、そちら側に顎がずれていき、顔全体のバランスに影響を及ぼします。

4. 顔面の発育への影響

子どもの成長期において、顔面の骨格の発育は歯ぎしりや食いしばりを含む悪習癖の影響を受けます。特に、顎の発達や形状に変化が生じ、顔の形が変わることがあります。これにより、顎のラインが非対称になったり、顔の一部が凹んだりすることがあります。

歯ぎしり食いしばりの予防策

顔が歪む原因の一つである歯ぎしり食いしばりに対して、どう予防すべきか説明します。過去に記事と重複するところもありますが、あらためて説明したいと思います。

1.ストレス管理: ヨガ、瞑想、深呼吸などのリラクゼーション法を取り入れることで、ストレスを軽減し、無意識の歯ぎしりや食いしばりを減少させます。歯ぎしり食いしばりは交感神経が優位な状態で発生しやすいので、副交感神経を優位な状態にさせる試みは非常に有効です。

2.定期的な運動: 適度な運動はストレスを軽減し、全身の筋肉の緊張をほぐすのに役立ちます。

3.栄養状態の管理: カフェインやアルコールの過剰摂取は歯ぎしりを悪化させることがあるため、これらの摂取を控えることが推奨されます。

4.規則正しい睡眠: 睡眠時間不足や不規則な睡眠、入眠前の睡眠を阻害する習慣は睡眠を浅くしてしまいます。歯ぎしり食いしばりは眠りの浅いとき（レム睡眠時）に生じますので、深い睡眠が得られるよう習慣を見直すことが大切です。

5.ナイトガード: ナイトガードは、睡眠中の歯ぎしりや食いしばりから歯を保護するだけでなく顎への負担も軽減します。これにより、顔や顎の筋肉の過緊張も防ぐことができます。

6.リマインダーの設定: 日中の食いしばりを防ぐために、スマートフォンのアラームやデスクトップの付箋などでリマインダーを設定することで、定期的に顎をリラックスさせることを意識します。意外と起きている間でも歯と歯を接触させていることが多く、それが知らないうちに食いしばりになっていたりする場合があります。

7.筋肉のストレッチ: 定期的に顎の筋肉をストレッチし、緊張を緩和します。口を大きく開けたり、軽くマッサージをすることが効果的です。

歯ぎしり食いしばりの治療法

噛み合わせの調整: 歯や詰め物被せ物などの形態や高さなどを調整することによって噛み合わせを変えます。それによって顎や顎関節、歯への不均等な負荷や干渉を軽減し、顔の歪みを防ぎます。

噛み合わせの矯正治療: 噛み合わせを顎の位置ごと矯正・誘導することで、顎や顎関節、顎を動かす筋肉への負荷を軽減し、顔の歪みを防ぎます。必要に応じて、前述のような目的から歯の形を被せ物で修正することもあります。

ボツリヌストキシン注射: 咬筋や側頭筋といった噛むときに使用する筋肉が過度に発達・緊張している場合、ボツリヌストキシン注射で当該の筋肉をリラックスさせる方法があります。それによって、筋肉の肥大が減少し、顔のバランスを整えることができます。

結論

歯ぎしりや食いしばりは、顔の歪みを引き起こす重大な要因です。これらの習慣によって顎の筋肉の不均衡、顎関節の変形、噛み合わせの不調、顔面の骨格への影響が生じ、結果的に顔の非対称性が発生します。予防と治療には、ストレス管理、生活習慣の見直し、ナイトガードの使用、そして専門的な治療法が含まれます。早期に対処し、適切なケアを行うことで、顔の歪みを防ぎ、健康な口腔状態を維持することが可能です。